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MIDI[ 「夢みるたんぽぽ」ピアノとプライベートスタジオ
photo by ろまさん

                                葡萄の実のなるころに

春になったばかりのある日
さっきまでの晴れた空が
急に曇り、大粒の雨が降り始めました。

   困ったな、巣まで戻れないや。

小鳥は、ついつい遠出をしてしまったことを
後悔しました。

やっとの思いで
一軒の家にたどり着き
ずぶぬれの羽を乾かしていると
どこからか声が聴こえてきました。

  あめ あめ こんこ
  ひとつぶ落ちて
  お池の中の めだかとあそぼ

  あめ あめ こんこ
  ふたつぶ落ちて
  お池の中の かえるとあそぼ


窓から
女の子の歌を聴いていると
冷たくなった体が ほっこり
温まってきました。

























季節を重ねた春
いつものように小鳥は
女の子のところにやってきて
いつものように囀りました。

小鳥の囀りに
いつも窓を開けるはずの女の子は
今日は窓を開けません。

小鳥は、女の子になにがあったのか
とても心配になりました。

小鳥は、何日も、窓を見つめ囀りました。

ある日、窓が少し開き、女の子が見えました。
小鳥は、とてもうれしくて、いつもより大きな声で囀りました。
でも、女の子は、いつものように歌いません。

小鳥は、囀りを止め、女の子を見つめました。
女の子は泣いているようでした。
小鳥は、どうしていいのかわからなくて
ただ女の子を見つめることしかできませんでした。







小鳥は、なんとか女の子の悲しみをすくってあげようと
小さな声で、かすかに囀りました。

  
    君は なぜ泣いているの
    どんな つらいことがあったの
    僕には どうしてあげることもできない
    でも
   君の悲しみを すくってあげたい
    君の涙を ぜんぶ飲み込んであげるから
    どうか 君が幸せになりますように



こころをこめて
小鳥は優しく囀りました。

女の子は顔を上げて
涙でくしゃくしゃな顔をそっとぬぐいました。

あくる日も、そのあくる日も
小鳥は、こころをこめて
そっと囀りました。

何週間かして
小鳥の囀りに、女の子の歌声がしました。
女の子は少し微笑んだようでした。
小鳥はほっとしました。


   ありがとう 鳥さん
   ずっと私を見ていてくれたのね
   あなたの優しさに包まれて
   私は、元気になれそうよ
   私も鳥になれたらいいのに
   そしたら 一緒に 空を飛べるのに











季節が変わるごとに
小鳥は、野を越え、山を越え
女の子に会いにやってきました。

窓から女の子が見えると
小鳥はいつも、ほっとして
美しい声で囀りました。

女の子は、いつも
小鳥の囀りに合わせるように
歌いました。

























































僕たちの大切なあの子は、
いったいどこに行ってしまったんだ

     あの子は鳥になったんですよ。
     
そんなこと信じられない

    ええ 
    でも あの子は幸せになったんですよ

女の子の両親は
窓の外をずっと見つめていました。